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広島高等裁判所 昭和59年(行コ)10号 判決

控訴人(被告) 広島県知事

訴訟代理人 宮越健次 富岡淳 北脇重男 永谷 進 ほか四名

被控訴人(原告) 岩城久吉 外二三七名

主文

一  原判決中、主文第二項を次のとおり変更する。

二  被控訴人らの請求の趣旨2項の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

次に付加、訂正する外は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の付加、訂正)

原判決二枚目裏末行目から同三枚目表一行目にかけての「以下「本件整理事業」という」を「以下、右事業と右事業に先立ち広島市内の戦災復興事業として行われた控訴人の土地区画整理事業を総称して「本件整理事業」または「本件土地区画整理事業」という」と改める。

同三枚目表七行目の「公告」の次に「(以下、「本件公告」という。)」を加え、同裏一行目から次行にかけての「公告(以下、「本件公告」という。)」を「本件公告」と改める。

同五枚目表七行目の「測量増地」を「測量結果に基づく増地(以下、「測量増地」という。)」と改める。

同六枚目裏七行目の「換地になっている」を「換地となっており、元地を一とすれば、換地は三五・七三倍という極めて大幅な増換地になっている」と改める。

同八枚目裏六行目の「法九六条の規定により」を「法九六条一項、二項の規定に違反するもので」と改め、同末行の「右保留地を」の次に「処分時の時価で処分すべきところ」を加える。

同一二枚目裏九行目の次に、改行して次のとおり加える。

「 したがって、被控訴人らの本件公告の取消を求める請求は、不適法である。」

同一八枚目裏七行目の「それは」を「右各面積の差により生じた測量増地は」と改める。

同二五枚目裏四行目の「この換地計画」を「本件換地計画」と、同七行目の「換地処分は」を「そして、控訴人は本件換地処分を」と、同九行目の「公告」を「本件公告」と、それぞれ改める。

同二八枚目裏四行目から次行にかけての「計画が変更されたことにより」を「公共施設の縮小を内容とする前記事業計画の変更がなされたことにより」と改める。

同二九枚目裏四行目の「仮換地」の次に「(特別都市計画法に基づく換地予定地)」を、同一〇行目から次行にかけての「仮換地」の次に「(換地予定地)」を、それぞれ加える。

同三二枚目裏二行目の「右」の次に「未指定地」を加える。

(控訴人の当審における主張)

原判決は、一坪二坪換地が照応及び公平の原則に反し違法なものであるから、被控訴人らに対する本件各換地処分は違法であり、本来であれば取り消すべきであるとしたうえ、いわゆる事情判決により被控訴人らの右取消請求を棄却したが、控訴人の実施した一坪二坪換地は、次の理由からして、実質的に適法であるというべきである。

すなわち、一坪二坪換地は、戦災復興事業として開始された本件土地区画整理事業が連合国軍最高司令官の指令という超法規的事由により縮小され、その結果生じた未指定地について、できうれば仮換地の指定をやり直し、土地所有権者に分配することが望ましいが、事業が相当進捗してしまった段階では右の土地分配が不可能なため、せめて未指定地分の利益を金銭で土地所有権者に還元することとし、未指定地のままでは売却ができないため、これを県有地に対する仮換地としたうえ売却することとしたものであって、そのための手段、便法として行われたものである。

このように、一坪二坪換地は、超法規的事由によって生じた未指定地の処分方法として他に適当な方法がないため、やむなくなされたものであるうえ、一坪二坪換地による換地の売却代金は、すべて被控訴人らを含む従前地土地所有権者に還元され、控訴人は何らの利益を得ていない。

また、控訴人は、一坪二坪換地の実施に当たっては、土地区画整理委員会に諮って、その同意に基づき決定し、換地後の土地売却は未指定地売却基準(乙第一〇号証の二)に従って、原則として一般競争入札によるなど手続の慎重と公平を期したものである。

右の事情を考察すれば、一坪二坪換地については、通常の換地処分における照応及び公平の原則が適用されるべき場合でないのは当然のことであり、形式的には法に違反するとしても、超法規的事由により発生した未指定地の処分方法として他にとるべき方法がなく、土地権利者の利益にも合致する妥当なものであったことなどを考慮すると、法の趣旨、目的に照らして実質的違法性はなかったものというべきである。

(訴訟代理人山田慶昭が代理する被控訴人らの当審における主張)

控訴人は、一坪二坪換地を行ったのは連合国軍最高司令官の指示による超法規的事由による旨主張するが、右指示は一般的なものであって、法を無視して土地区画整理事業計画を変更するよう指示したものではなく、広島市と同様に戦災復興土地区画整理事業を行った全国の他の都市においても右処分のような例はないことからしても、その違法性は明らかである。

また、戦災復興土地区画整理事業計画の変更が閣議決定された昭和二四年六月から広島市土地区画整理事業の計画変更がなされた昭和二七年三月まで二年九か月が経過しており、当時の施行地区内における建物のまばらな建築状況からしても、仮換地の変更は可能であったというべきである。

一坪二坪換地は、控訴人が未指定地を売却して事業資金に充てる目的で行ったものであり、その一部が清算金として被控訴人らに還元されたとしても、被控訴人らにとっては仮換地指定の時期(昭和三〇年以前)に取り上げられた土地の代金を昭和四四年になって昭和三〇年の評価で支払われたのに等しく、その損害は重大である。

第三証拠〈省略〉

理由

第一本訴請求の趣旨2項の請求について

原審は、被控訴人らの本訴請求の趣旨1項及び3項の請求について、いずれも訴えの利益がないとして却下する旨の判決をしたところ、これについて、控訴の提起はなされていないから、当審においては審判の対象とはならない。

そこで、当裁判所としては、本訴請求の趣旨2項の請求に対する原審の判断の当否について、以下検討する。

一  被控訴人らが原判決添付別紙換地処分通知一覧表記載のとおり、同表記載の各土地につきそれぞれ所有権を有しているものであること、控訴人は昭和四四年六月上旬ころ法八六条一項により本件換地計画を決定し、同年七月初旬ころ(一部被控訴人らに対しては同年八月一九日)被控訴人らを含む関係権利者に対し前記一覧表記載のとおりの換地処分または換地処分変更の通知をして本件換地処分をなし、同年八月一九日その旨の本件公告をしたこと、以上の各事実は、当事者間に争いがなく、原判決添付別表(一)に記載されている各被控訴人らが同表記載の経過で本件換地処分通知の名宛人からそれぞれ相続により権利を取得したことは、弁論の全趣旨によりこれを認める。

二  ところで、被控訴人らは、本件換地処分について、前記引用にかかる原判決事実摘示の請求原因4に記載のとおりの各違法事由があり、取り消されるべきである旨主張するので、以下、検討する。

本件換地処分がなされるに至る事実経過については、本件整理事業の換地計画において元地(従前の土地)の地積は原則として土地台帳記載の地積によって定めたこと、その結果約三万二二〇五坪の測量増地が生じたこと、控訴人が被控訴人らが主張する内容の一坪二坪換地を実施したこと、その結果控訴人の所有する元地六〇七筆合計約六七〇坪に対し約二万四〇一三坪の換地が指定されたこと、他工区から本件整理事業の行われた一工区に飛換地した土地が約九三〇〇坪あったこと、本件整理事業において保留地が約一万五〇〇〇坪生じたこと、本件整理事業により原判決添付別表(二)の1ないし3に記載のとおり国道、平和公園等の公共用地が確保されたこと、本件整理事業の対象地区となった舟入川口町、西川口町、舟入幸町の一部については昭和九年に組合施行により土地区画整理がなされた経緯があること、以上の各事実は当事者間に争いがなく、右各事実に加えて、成立に争いのない甲第一号証、第七ないし第九号証、第一九号証、第二三号証、第二八号証の一、乙第一号証、第三ないし第七号証、第八号証の一ないし三、第九号証及び第一〇号証の各一、二、第一一ないし第二〇号証、第二一号証及び第二二号証の各一、二、第二三号証の一ないし四、第二五号証、第三一号証の一ないし三、第三三号証の一ないし一三、第三四号証、原審証人竹重貞藏、同西春雄、同茂森拓、同比原正典、同広岡昂、同大鼓矢守、同三山文昭及び同山本靜の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、原判決事実摘示の四の1の「本件整理事業の経緯について」の項(原判決一四枚目裏八行目から同二六枚目表一行目まで)に記載の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  そこで、まず、被控訴人らの主張する本件換地処分の各違法事由の中、当審において主たる争点となった一坪二坪換地の違法性の有無について検討する。

前記認定事実に加えて、前掲各証拠並びに成立に争いのない乙第四二、第四三号証、原本の存在と成立に争いのない乙第四一号証、弁論の全趣旨により原本の存在と成立を認める乙第四四号証の一ないし三、当審証人新村剛藏の証言及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  本件整理事業は、第二次世界大戦後間もない時期に開始された戦災復興事業を受けて行われたものであるが、当初の戦災復興事業計画は、その後のインフレの激化とこれを防止するために連合国軍総司令部から示された経済安定九原則などの要請から、大幅な変更を余儀なくされた。

そこで、政府は昭和二四年六月二四日「戦災復興都市計画の再検討に関する基本方針」を閣議決定し、同日付で建設省都市局長から各都道府県知事に宛て、事業費節減のために公園、街路等の公共施設の計画及び施行地区の縮小を求める内容の通達が出された。

しかし、控訴人としては右事業計画の変更を予想していなかったことに加えて、すでに換地予定地の発表をするなど事業計画を相当に進捗させていたため、その対応に時間を要し、昭和二七年三月になってようやく広島市における戦災復興事業計画の変更を決定し、その結果、当初予定されていた公園、街路等の公共施設の規模を縮小したことにより六万〇三六〇坪(一坪未満は切捨て、以下、土地の面積については同じ。)のいわゆる未指定地が生じるところとなった。

2  控訴人は、右未指定地のうち、二万〇九六八坪については従来の過小宅地、過大宅地に対する方針を変更して仮換地指定をなし、一万五三七九坪は保留地としたうえ売却処分したが、残る二万四〇一三坪については次の理由及び経緯から、これを一坪二坪換地の対象とした。

すなわち、広島市は昭和二〇年八月六日に投下された原子爆弾により市街地が文字どおり廃墟と化したが、戦後いち早く疎開先あるいは外地から大勢の人々が続々と引き揚げ、焼け跡にバラック等を建てて居住するようになった。控訴人は、戦災復興事業を進める過程で、これらの市民の要請に応えて特別都市計画法に基づく換地予定地の指定を逐次行ない、昭和二四年三月ころまでには、ほぼ対象地区全体に右指定がなされて、前記事業計画の変更が行われた昭和二七年ころまでには、すでに全体の約六割に相当する土地上に建物が建築されている状況にあった。

このため、前記事業計画の変更により生じた未指定地の処理方法として、従前の仮換地計画を全面的に変更し仮換地指定をやり直すことは、すでに換地予定地上に建てられた建物の除去、移転を求めることとなり、社会的、経済的影響が大きく不可能で(なお、換地予定地上の建物については換地計画決定により除去、移転が命じられたときはこれに従う旨の念書を差し入れる扱いとなっていたが、昭和二五年ころからは建物の建築が本格化し、事実上その履行を求めるのは困難であった。)、早急に土地区画整理事業を完成するという方針にも反することであった。

また、未指定地を保留地としたうえ売却することにすれば、その代金が土地区画整理事業の費用に充当され、国及び広島県の負担が軽減することになるが、直接には従前地所有者の利益とならないので、その利益を従前地所有者に直接還元する方法につき検討が進められた。

そこで、控訴人の係員が再三にわたり当時の監督行政庁であった建設省に出向いて行政指導を受けた結果、法九一条一項の増換地指定の規定を類推適用できるとの見解のもとに、未指定地の処理方法として考え出されたのが一坪二坪換地であった。

3  右の理由及び経緯から、控訴人は、昭和三〇年一〇月ころ、土地区画整理審議会に諮問したうえ、一坪二坪換地の基本方針を決定したが、その内容は、施行地区内に散在する広島県所有の事業用地の一部を一坪または二坪ずつに分筆し、これを法九一条一項の過小宅地として未指定地に対し増換地指定を行ったうえ売却処分し、その代金(清算金)を従前地所有者(但し、未指定地から仮換地指定を受けた者、一坪二坪換地を受けた者は除く。)に支払うというものであった。

控訴人は、一坪二坪換地を実施するため、土地区画整理審議会に諮ったうえ、事業用地売却要綱(乙第一〇号証の一)の特則として昭和三一年一〇月三〇日未指定地売却基準(乙第一〇号証の二)を作成し、次の方法で未指定地の売却を実施した。

まず、控訴人は施行地区内に散在する広島県所有の事業用地(換地を希望しない従前地所有者などから買い上げ、減歩率緩和など事業施行上の必要があるときに処分する土地)約一万八〇〇〇坪のうちから六七〇坪を一坪または二坪ずつに分筆して、法九一条一項の過小宅地として扱い、これらを従前地として、未指定地六万〇三六〇坪のうち仮換地指定または保留地処分の対象外として残った二万四〇一三坪に対し、増換地としての仮換地指定をした。

つぎに、一坪二坪換地を受ける対象者は、事業用地売却要綱二条に定める者(施行地区内の土地所有者、地上権者、永小作権者及び賃借権者その他施行地区内の土地を使用、収益することができる者並びに事業施行のため特に必要と認められる者)とし、控訴人は、右対象者が従前施行地区内で使用していた土地の場所、地積などと、未指定地の場所、地積などの関係を考慮したうえ、土地区画整理審議会の個別の同意を得た後、その各場所、地積に符合させて仮換地指定(法九一条一項に基づく増換地指定)を行った。

その後、広島県は、右増換地指定を受けた土地について、順次、前記対象者に対し、未指定地売却基準に従って売却処分を進め、売却決定通知を受けた者から仮清算金として払下代金を徴収した。

なお、控訴人は、一坪二坪換地の売却手続は原則として一般入札の方法によった旨主張するが、右認定のとおり、売却対象者を選別し、個別に土地区画整理審議会の同意を得たものであって、一般入札が行われたことを認めるに足りる証拠はない。

4  このようにして、昭和三一年ころから昭和三六年ころにかけて、一坪二坪換地が実施され、広島県は、仮換地(増換地)指定を受けた二万四〇一三坪を六〇七名の対象者に売却し(売却代金は、評価員の意見を聞いて定めた各売却当時の時価とした。)、本件換地計画が決定された昭和四四年ころ、従前地合計六七〇坪と仮換地(増換地)二万四〇一三坪との差額金約一億九〇〇〇万円を控訴人に支払った。

そして、控訴人は、そのころ、広島県から右支払われた約一億九〇〇〇万円を、本件整理事業の清算金に繰り入れ、これを施行地区内の被控訴人らを含む従前地所有者(但し、未指定地から直接仮換地指定を受けた者、一坪二坪換地の対象に選ばれた者を除く。)に対し、その各従前地の評価額に按分して支払った。

5  なお、広島市の東部区域の戦災復興土地区画整理事業を担当した広島市長においても、本件整理事業におけるのと同様に一坪二坪換地を実施しており、同市東部区画整理審議員である川本徳二が昭和四三年三月五日付書面で建設省都市局区画整理課長宛てに照会したところ、同課長は同年四月二三日付書面(乙第四四号証の三)により、一坪二坪換地は当時の社会的背景その他の諸事情によりみて、やむをえない措置であったと考えられるので、これをもって当然に違法視することはできない旨回答している。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実に基づき判断するに、まず、被控訴人らは、全国の他の都市においても一坪二坪換地のような例はなく、戦災復興土地区画整理事業計画の変更が閣議決定された昭和二四年六月から広島市土地区画整理事業の計画変更がなされた昭和二七年三月まで二年九か月が経過しているから、この間において、当時の施行地区内における建物のまばらな建築状況からしても、仮換地指定を全面的に変更することが可能であった旨主張する。

しかしながら、右事業計画の変更がなされた当時には、すでに土地区画整理事業が相当程度進捗していたことに加え、広島市は原爆の投下により市街地が全くの廃墟と化したという全国の他の都市とは比較にならない事情のもとに戦後の復興事業が開始されたものであり、右の事情を考慮すると、連合国軍総司令部の指令に端を発した土地区画整理事業の変更の閣議決定から控訴人が広島市土地区画整理事業の計画変更を決定するまで二年九か月を要したのは無理からぬところであったといえる。

そして、前記認定のとおり、昭和二七年ころには、すでに特別都市計画法に基づく換地予定地の指定により、施行地区内の約六割に相当する土地上に建物が建築されている状況にあり、前記事業計画の変更により生じた未指定地の処理方法として、被控訴人らが主張するように従前の仮換地計画を全面的に変更し仮換地指定をやり直すことは、換地予定地上に建てられた建物の除去、移転等を伴うものであって、社会的、経済的な影響が余りに大きく、事実上不可能であったというべきである。

確かに、換地予定地上の建物については換地計画決定により除去、移転が命じられたときはこれに従う旨の念書を差し入れる扱いとなっていたが、昭和二五年ころからは建物の建築が本格化しており、実際に既存建物の除去、移転を命じることは、経済的損失が著しいばかりか社会的不安をも招きかねず、控訴人が未指定地のうち二万〇九六八坪についてのみ従来の過小宅地、過大宅地に対する方針を変更して仮換地指定をし、それ以上に全面的な仮換地指定のやり直しをしなかったことは、違法であるとはいえない。

次に、被控訴人らは、一坪二坪換地は法八九条に定める照応の原則に反し、ひいては憲法二九条の財産権の保障に違反するものである旨主張する。

そこで検討するに、控訴人が実施した一坪二坪換地は、法九一条一項所定の過小宅地に対する換地(増換地)の規定を類推適用して行われたものであるところ、右規定は、災害を防止し、衛生の向上を図るため宅地の規模を適正にする特別な必要があると認められる場合に適用されるものであり、通常の換地とは異なり、照応及び公平の原則に対する特例を認めるものではあるが、その増換地の割合にはその目的に照らして自ら限度があるものというべきである。ところで、控訴人が実施した一坪二坪換地は、未指定地の売却のために作為的に過小土地を作り出したものであるうえ、増換地比率は平均三五・八倍という高倍率となるものであり(広島県所有の事業用地六七〇坪を一坪または二坪に分筆したうえ、これを従前地として未指定地の二万四〇一三坪に対し仮換地(増換地)したので、二万四〇一三坪を六七〇坪で割ると三五・八となる。)、これらの点に照らすと、一坪二坪換地は、前記限度を逸脱し法九一条一項に反することは明らかであり、違法なものであるといわざるを得ない。

しかしながら、その違法性の程度についてみるに、前記認定判断したところによれば、(一)控訴人が一坪二坪換地を実施するに至ったのは、戦後の急激なインフレに対応して、国家財政的見地から土地区画整理事業計画の変更(公共施設の縮小)を余儀なくされ、その結果、未指定地が生じたことによるもので、本件土地区画整理事業の手続内に瑕疵があったことによる場合とは異なり、施行者である控訴人を非難することはできないこと、(二)控訴人において、右の経緯により生じた未指定地を、従前の仮換地指定を全面的に変更して、そのまま従前地所有者に按分して返還することは、当時の社会状況の下では事実上不可能であったもので、かえって、土地区画整理事業の遅滞を招来して本件整理事業の趣旨に反することになるから、右仮換地指定の全面的変更をしなかったことが違法であるとはいえないこと、(三)未指定地の処理方法としては、保留地として売却することが適法な方法として考えられるが、この方法は、施行者には有利であっても、従前地所有者には直接利益とならず、控訴人において、敢えて、この方法を採らずに、土地そのものに代えて金銭で従前地所有者に還元する方法を検討し、土地区画整理審議会にも諮ったうえ、法九一条一項の規定を類推適用して一坪二坪換地を実施し、これによって得られた売却代金を従前地所有者に直接かつ公平に還元する方法を選択したのは、やむを得ない措置として強く非難することはできないこと、の各事情があるものということができる。

そして、本件土地区画整理事業において未指定地が生ずるに至った経緯、未指定地の処理方法として一坪二坪換地が選択された事情、一坪二坪換地の実施手続など、以上にみた諸般の事情を総合考慮すれば、一坪二坪換地の違法性は軽微なものといわざるを得ず、違法ではあるが、本件換地処分の取消事由とするに足りるほどの違法性はないものというべきである。

なお、被控訴人らは、一坪二坪換地により売却された土地代金が被控訴人らに還元されたとしても、被控訴人らにとっては昭和三〇年以前に取り上げられた土地の代金を昭和四四年になって昭和三〇年ころの評価で支払われたのに等しく、その損害は重大である旨主張するが、前記認定のとおり、一坪二坪換地により仮換地(増換地)指定を受けた土地の売却代金は、評価員の意見を聞いて定めた各売却当時の時価によっており、これを清算金に繰り入れたうえ、本件換地処分がなされた昭和四四年ころ従前地所有者である被控訴人らに支払ったのであるから、後記四の8で判示するのと同様の理由からも、右売却代金の決定及び清算について違法があるとはいえない。

四  次に、本件換地処分につき被控訴人らが主張する一坪二坪換地以外の各違法理由について、以下検討を加える。

1  平均減歩率について

前掲甲第一号証、乙第三四号証及び弁論の全趣旨によれば、本件整理事業における最終減歩率は二割二分五厘であって(但し、一坪二坪換地を除く民有地減歩率は二割六分二厘)、戦災復興事業として行われた全国の他の都市の土地区画整理事業と比較して、右減歩率は決して高いとはいえず、この点について違法性は認め難い。

2  未指定地について

未指定地が生じた経緯は、前記認定のとおり、戦後のインフレ防止の要請に基づく戦災復興事業計画の変更によるもので、控訴人に責められるべき事由はなく、その全体を従前地の土地所有者に按分して返還することは事実上不可能であったものであり、それをしなかったことが違法とはいえないことは前述のとおりである。また、控訴人の行った未指定地の処理方法のうち、一坪二坪換地については前述のとおりであり、過小宅地に対する増換地及び保留地については後に説示するとおりである。

3  測量増地について

被控訴人らは、本件整理事業において、控訴人が従前地の地積を実測せず、土地台帳上の地積によって従前地の地積を決定し、その結果に基づいて換地処分を行ったため約三万二二〇五坪の測量増地が生じたのは、違法である旨主張する。

そこで、検討するに、本件整理事業において控訴人が原則として土地台帳上の地積によって従前地の地積を決定し、その結果約三万二二〇五坪の測量増地が生じたことは、当事者間に争いがなく、前掲甲第一号証、乙第一一、第一二号証、前掲証人西春雄の証言及び弁論の全趣旨によれば、法は従前地の地積の決定方法につき特に規定しておらず、広島平和記念都市建設事業西部復興土地区画整理事業施行規程(乙第一二号証)一七条では、従前地の地積は昭和二〇年八月一五日現在の土地台帳面積により、知事が必要と認める場合は実測面積による旨定めていること、控訴人は、右規程に基づき、原則として土地台帳面積により従前地の地積を決定したが、昭和二二年一一月二〇日実測面積が土地台帳地積より著しく大きい土地については実測査定するので昭和二三年一月三一日までに申し出るよう公告し、右申出のあった者については該土地の実測に基づき地積訂正の手続をとったこと、本件整理事業計画において生じた約三万二二〇五坪の測量増地は、施行地区全面積の約二パーセントに過ぎないことの各事実が認められる。

ところで、土地区画整理事業において、従前地の地積を決定するには、当該土地の実測によることがより合理的であるといえるが、前記認定のとおり、本件整理事業は、緊急を要する戦災復興土地区画整理事業として開始されたという特別な経緯があり、広範な地域にわたる従前地を一筆ごとに実測することは莫大な費用と時間を要することになるから、控訴人において前記規程を定めて、原則として土地台帳面積によることとし、特に申し出た者に限り実測面積による扱いとしたことは違法ではなく、その結果、施行地区全面積の約二パーセントに過ぎない測量増地が生じたことはやむを得ないところであったというべきである。

よって、右の点についての被控訴人らの主張は採用できない。

4  増換地指定について

被控訴人らは、本件整理事業において、土地区画整理委員になっている者、その他特別の者に対して従前地が過小宅地でもないのに増換地を受けているなど、不公平な処分が行われている旨主張するが、本件全証拠によるも、控訴人が法九一条、九二条の規定に反して恣意的に一部の者だけに対し増換地を行ったと認めるに足りる証拠はない。したがって、この点についても、被控訴人らの主張は採用できない。

5  飛換地について

本件整理事業において他工区から一工区に飛換地した換地地積が九三〇〇坪あったことは当事者間に争いがないが、これは、前記認定(前記引用にかかる原判決二二枚目裏八行目から同二四枚目表一行目までに記載の事実)のとおり、昭和三四年七月九日に本件土地区画整理事業計画が変更されたことにより施行地区が一工区と二工区に分離されたことに伴うものであって、やむをえない現象というべきであり、これをもって違法ということはできない。

6  広島市有地に対する換地について

前掲証人比原正典の証言及び弁論の全趣旨によれば、広島市に対し増換地が行われたのは、公用または公共用財産である学校、消防出張所等の敷地についてであって、法九五条の規定に沿うものであり、控訴人は広島市から合計約一億五〇〇〇万円の清算金を徴収しているのであるから、この点についても、被控訴人らの主張する違法性は認め難い。

7  保留地について

本件整理事業において、保留地が約一万五〇〇〇坪あったことは当事者間に争いがないが、土地区画整理事業において保留地を設定し、それを処分することによって事業費を捻出することは法九六条及び施行規程等によって許容されており、前掲甲第一号証、乙第一二号証、前掲証人広岡昂の証言及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、右法及び施行規程に従い、評価員の意見を聞いたうえ、右保留地を処分して本件整理事業の費用に充てていることが認められるから、この点についても違法性は認め難い。

8  清算金の評価時点及び評価方法について

前掲甲第一号証、乙第一号証、第一五号証、成立に争いのない乙第二号証の二、弁論の全趣旨により成立を認める乙第二号証の一、前掲証人三山文昭の証言及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、本件土地区画整理事業における清算金について、仮換地上への建物の移転ないし街路工事等がおおむね完成した昭和三〇年三月ころを評価基準時とし、広島県広島都市計画事務所が定めた土地評価基準及び路線価算定要領等に準拠して、いわゆる路線価式評価法により、評価員の意見を聞いたうえ、各従前地及び換地の評価額を決定し、そのうえで、清算金を算定して、これを本件換地処分がなされた昭和四四年ころ被控訴人らを含む従前地土地所有者に支払ったことが認められる。

ところで、土地区画整理事業における清算金は、換地により関係権利者に不均衡が生ずると認められる場合、従前の宅地と換地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等を総合的に考慮して金銭により清算することを目的としたものであり(法九四条)、換地における関係権利者の不均衡是正という右制度目的に照らせば、控訴人において本件整理事業の工事概成時である昭和三〇年三月ころを清算金評価基準時としたのは合理的であり、違法性はないというべきである。

この点について、被控訴人らは、清算金が現実に支払われたときの時価によるべきである旨主張するが、右主張は、清算金の支払を受ける者の利益に偏り、その徴収を受ける者の不利益を無視するもので、前記清算金の制度目的に反するものといわなければならず、採用できない。

また、控訴人が前記認定のとおり、清算金算定の基礎となる各従前地及び換地の評価額を、いわゆる路線価式評価法により決定したことは相当であって、本件全証拠によるも、右評価額の決定において被控訴人らが主張するような違法事由を認めるに足りない。

9  国道、平和公園等のただ取りについて

土地区画整理事業は、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図ることを目的としており(法二条一項)、健全な市街地造成に必要な公共施設及び宅地に関する計画が適正に定められていなければならない(法六条二項)から、土地区画整理事業の施行地区の中から必要な公共施設用地が控除されることは法により予定されているところである。そして、付近に道路、公園等の公共施設が整備されることによって、私有地の価値も増大するのであるから、各私有地の一部が公共用地のため提供され、国または地方公共団体においてこれを無償で取得したとしても、これをもって違法ということはできない。したがって、本件土地区画整理事業において、施行地区内に設けられた国道二号線、平和公園等の公共施設を国または地方公共団体が無償で取得したことについては、何らの違法はない。

10  換地各筆の照応性について

被控訴人らは、本件換地処分について、従前地と換地を比較すると、その位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等につき、いずれも換地の方が極端に劣っている旨主張するが、右主張は具体性を欠くものであって主張自体失当であるのみならず、本件全証拠によるも、被控訴人らに対する本件各換地処分が法八九条に定める照応の原則に反することを首肯させるような事実を認めるに足りない。

11  舟入川口町等における本件整理事業について

舟入川口町、西川口町及び舟入幸町の一部について昭和九年に組合施行の土地区画整理事業が実施されたことは当事者間に争いがないが、成立に争いのない乙第二六号証、第三五号証、前掲証人大鼓矢守の証言及び弁論の全趣旨によれば、その当時の土地区画整理は道路幅も狭く、公園等の公共施設も少なかったこと、本件整理事業は、戦災復興事業として開始された広島市全域の土地区画整理事業であり、広島市全体の近代的都市計画事業の推進の観点からして、右地区についても他の地区と同様に施行地区に加えることが必要であったこと、現に本件整理事業により右地区についても道路の拡幅、公共施設の整備改善等が図られたことが認められ、本件全証拠によるも、本件整理事業により右地区が他の地区と比較して特に不利益に扱われたことを認めるに足りない。

そうすると、右地区において施行された本件土地区画整理事業が違法であるとはいえず、この点についての被控訴人らの主張は採用できない。

12  換地計画決定前の仮換地指定について

被控訴人らは、本件整理事業において、控訴人が換地計画を作成決定する前に換地予定地的仮換地を指定したことは違法である旨主張する。

しかしながら、前掲証人西春雄、同比原正典の各証言及び弁論の全趣旨によれば、本件整理事業は、戦災復興事業として行われたものであって、仮換地の指定の殆どは昭和三〇年三月ころまでに、特別都市計画法一三条一項の、土地区画整理のため必要があるときは換地予定地(仮換地)の指定ができる旨の規定に基づき、適法に行われたものであること、その後の仮換地指定については、昭和三〇年四月一日施行の土地区画整理法に基づき行われたものであるが、法九八条一項は「換地処分を行う前において、土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合又は換地計画に基づき換地処分を行うため必要がある場合において」は、仮換地を指定することができると定めており、右前段の場合には換地計画前の仮換地の指定を許容していること、また、右前段に該当しない場合でも、換地計画を仮換地の指定前に必ず決定しなければならないとすれば、権利者の変更等があった場合にその都度換地計画を変更する必要が生じて事業の遅滞を招くことになり、そのため、実際の土地区画整理事業においては、換地計画に基づかない仮換地の指定がやむをえない措置として行われていること、そして、右のように換地計画に基づかない仮換地の指定をする場合には換地計画の決定の基準を考慮しなければならないこととなっており(法九八条二項)、仮換地の指定に際してはあらかじめ土地区画整理審議会の意見を聞くこととされ(同条三項)、慎重な手続により権利者の意見が反映されるほか、このような場合でも、最終的に換地処分が行われるまでには必ず換地計画が決定され、利害関係人の縦覧に供して権利保護が図られることになっており、本件整理事業においても右のとおりに行われたことが認められる。

そうすると、本件整理事業において、控訴人が換地計画を作成決定する前に仮換地指定を行ったことをもって、明文の規定がないからといって直ちに違法と断ずることはできず、この点についての被控訴人らの主張は採用できない。

以上のとおり、被控訴人らが主張する一坪二坪換地以外の各違法事由についても、いずれもこれを違法と認めることはできず、本件換地処分の取消事由とはならないというべきである。

第二結論

以上の次第で、本件換地処分についてこれを取り消すべき違法事由は認め難いから、被控訴人らが請求の趣旨2項において求める本件換地処分の取消請求は理由がないものとして棄却すべきである。そうすると、原判決が、一坪二坪換地について、本件換地処分を取り消すべき違法事由に該当するとしたうえ、その余の点の判断に立ち入らないで、被控訴人らの右請求につき行政事件訴訟法三一条一項を適用して事情判決をしたことは不当であって、その部分につき変更を免れない。

よって、原判決主文第二項を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田忠治 佐藤武彦 難波孝一)

当事者目録〈省略〉

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